ご存知かもしれませんが、ボクはお寿司が好きです
いくら好きでも、高価なお寿司をそうしょっちゅう喰える訳ではありませんから、閉店間際のお寿司屋さんに、半額になるであろう折り詰め寿司を、半額になるまで待って購入しているのですが、やはりカウンターで板さんと差し向かいで座って、「今日のお薦めを」なんて注文したいものです
今でもいまいち結果に納得がいかないワークショップに、森下まで通っていました時に、稽古場の近くで、
こんな看板を見つけました
ランチで、寂しい懐でも届く値段でしたので、早速入ってみた時のことです
そこはいわゆるザ・お寿司屋さんで、中には常連らしき壮年のおじさんと、ロシア語なまりの日本語を話す外国人がすでのカウンターで寿司を喰っています
カウンターにはいかにも板さん然とした板さんがネタを握っていて、ボクをチラリと睨み、低く小さい声で「らしゃい」と迎えます
角刈り/強面/神輿肩の3拍子そろった板さん、おそらくフンドシを締めているであろうその姿に、「おお・・ザ・寿司屋!だあ」と心の中で叫び、その雰囲気にしばし痺れます
カウンターに座って、「ええ・・っと、あのランチ寿司を・・」とおずおず注文しますと、板さんはギロリとこちらを見て、ボクの前に笹の葉をベロリと敷きます
横から志村けんの演ずるお婆さんのような女将さんがすっと現れ、お茶とおしぼりとお吸い物を給仕します
テレビから震災のニュースが流れていて、お客さんふたりはじっとそちらを眺めています
戦々恐々としておりますと、おもむろに板さんが握ったお寿司が2貫笹の上に差し出します
「え?!」
ボクはてっきり黒い漆塗り風の四角い器に入ったモノがボンと出てくると想定しておりましたので戸惑ってしまったのですが、ここで躊躇していたら、「お客さんにはちょっと早かったようだな」と板さんに足蹴にされそうでしたので、取り敢えずそれを口にしようと思ったのですが、・・箸で?・・手で直接・・・?
顔をまっすぐの位置に保ったまま、横のふたりの様子をチラ見しますと、隣のロシア人は器用に箸で、じいさんは手で喰ってます
日本人としては手で行くべきか?
いや、ツウぶっていると思われやしないか?
でも、箸かよ!と思われるかも・・なぞと2分くらい逡巡し、もしかしたら手でつかむのも流儀があるかもしれないと判断し、今回は箸にしようと思い、ブツをはさみ口に運びます
・・が、緊張しすぎて、何のネタか、味もよくわかりません
モグモクしておりますと、程なく次のネタが出てきます
・・やはり何だかよくわからない
しかも、仕事の様子をジロジロ見ていいものか、テレビを見ていて気を悪くしやしないか、目のやり場に困ります
結局、横に置いた台本を眺めているというポーズを作り、目の端で板さんの動向を注視します
5ネタ目を喰ったくらいから、とある問題が持ち上がってきました
・・どこがストップなのか・・?
箱ものの寿司と違い、都度差し出されるものを食すタイプですから、終点がわからない
しかも、ここまで「らっしゃい」からずっと無言で寿司を握っている板さんが、「次で終わりです」なんて軟派な言葉を発するとは到底考えられない
推し量れ、ということなのか・・?
一定のリズムで給仕されていた寿司がピタリと止まった時を見計らって、「勘定!」と申し上げる・・なんて高等技術、もちろんありません
それがザ・日本の心、和の嗜みなのか・・?
あああ・・でもその「勘定!」が、歌舞伎の大向こうの「ナリコマヤ!」的な掛け声を外してしまった時のような体たらくだったらどうしよう・・
味あう余裕なんて全くありません
変な汗が流れてきました
と、そのとき、横から志村婆さんが、スッとデザートを給仕したのです
・・天の助けです!!
てか、すごい間合いです!
彼らは、一言も無粋な言葉を発すること無く、「もう出ませんよ」ということを表現したのです
静かな感動に打ちひしがれながら、デザート皿の中をみますと、それは杏仁豆腐・・
なんだか、ちょっと残念な気持ちになったのですが、それでも初めて生きた心地になって口に入れたそれは、その店で初めて味を感じた一品だったのでした
ワークショップオーディションに受かって、今度はもっと余裕を持って来よう!と目論んでいたのですが、見事に外れ
いつか別の仕事で森下に行ったときに、またお邪魔したいと思います
デザートを喰い終わってちょっと余裕が出てきた折、板さんが隣のロシア人と話している隙にパシャリ
まったく味のしなかった寿司の乗っていた笹の葉です